実が落ちる前に

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乃南アサ「凍える牙」の感想(ネタバレあり)


凍える牙 (新潮文庫)

 深夜のファミリーレストランで突如、男の身体が炎上した! 遺体には獣の咬傷が残されており、警視庁機動捜査隊の音道貴子は相棒の中年デカ・滝沢と捜査にあたる。やがて、同じ獣による咬殺事件が続発。この異常な事件を引き起こしている怨念は何なのか? 野獣との対決の時が次第に近づいていた——。女性刑事の孤独な闘いが読者の圧倒的共感を集めた直木賞受賞の超ベストセラー。

(文庫本裏)

感想(ネタバレあり)

刑事ものとしてはいまいち。地道な捜査のシーンが続くわりに、捜査とは全く関係ないところ(犯人の家が火事になって、こいつが犯人だとわかる)で事件が解決しちゃったから「なんだ、そりゃ」と思いました。あと、もう一人の犯人の方、あの人、必要だったのか。どうでもいい動機だし、二人の人間がたまたま同じタイミングで同じ人を殺そうと思ったというのもあれだし、ビルを燃やすためにどこに行くかわからない人間に発火装置を仕掛けるというのも「?」だし。ファミレスに入る前に爆発したら、殺し損じゃん。たしかに、小説のピークは最初の人が燃えたシーンだったけど(;´∀`)全員、かみ殺された方がすっきりする気がする。

 

犬が出てきたとたん、主人公がいきなり犬好きになってびっくりした。なんで犬にそんなに感情移入しちゃっているんだろう、と不思議でした。主人公が警察犬の訓練士とかいうんならわかるけど。いきなりの犬好き爆発で「気高くて、思慮深くて威厳があって」なんてほめちぎるから、ついていけなかった。離婚のせいで人間の男に懲りて犬に恋しちゃったのかと思いました。とりあえず、作者が犬と主人公の追いかけっこを書きたかったのだということだけはよく分かりました。

 

これまで女刑事の小説は何冊か読んできたけど、その中でこの主人公は一番「女」だと思う。男社会に負けない強い女を描きたかったのだろうけど、相方と行動しているときもずっと「男はこうだから」「女の私がこんなことをしたら、こう思われてしまうんだろう」なんてことを考えているし、メイクだの膀胱炎だの家族のごたごただのいらないことばかり考えている。

調べてみると、「凍える牙」が直木賞を受賞したのは1996年でした。今から約20年前。で、ぱっと思いつく女刑事を調べてみると、

・雪平夏見の「推理小説」(秦建日子)が2004年出版

・姫川玲子の「ストロベリーナイト」(誉田哲也)が2006年出版

探せばもっといるでしょうが、現在の刑事もの・警察小説で活躍する女刑事像のはしりは音道貴子だったのかもしれませんね。音道貴子から雪平や姫川へと続く過程で、女っぽさ・女くささがそぎ落とされているような気がします。周りの男性刑事の描写も変わってきています。2017年の今、「凍える牙」のようなセクハラ・下ネタ・「女はこれだから」というような女性差別を描いたら、きっと「リアリティがない」といわれてしまいますね。


ストロベリーナイト (光文社文庫)

 


推理小説 刑事 雪平夏見 (河出文庫)